古家を改修しながら暮らす!移住×DIY生活の魅力(辰野町)


空き家を一度に完成させるのではなく、暮らしながら少しずつ自分たちの手で住まいを育てていく――。
東京から長野県辰野町へ移住した大木さんは、一級建築士の赤羽さんのサポートを受けながら、空き家だった住居をDIYで改修しています。現在はガレージ2階を住居兼仕事場として活用し、住みながら必要に応じて手を加える暮らしを楽しんでいます。
2022年には、母屋やガレージの一部を会場にしたDIYイベントも開催され、多くの参加者とともに改修が進められました。DIYを通してどのように住まいと暮らしが変わってきたのか、大木さんと赤羽さんにお話を伺いました。
大木洋さん
前職ではカメラの画面やアプリのデザインに従事。辰野町へ移住後はデザイナーとして独立し、ガレージ2階を住居兼仕事場として活用しながら、ガレージと母屋を少しずつDIYで改修している。DIYについては赤羽さんのDIYイベントに何回も参加したおかげで回を重ねるごとに床はがしや漆喰塗りのスキルが上達している。

赤羽孝太さん
1981年辰野町生まれ。一般社団法人○と編集社代表理事。一級建築士、宅地建物取引士。2020年から辰野町移住定住促進協議会副会長を務め、2026年から会長。2025年、国土交通省「不動産業アワード」地域活性化部門優秀賞を受賞。「地域の今を再編集する」をテーマに空き家や空き店舗の活用に取り組む。設計や構造の専門知識を生かし、DIYイベントの企画から現在の改修まで、大木さんを技術面・安全面から支えている。

写真:赤羽さん提供
■辰野町との出会いからDIYへ
移住までの経緯を教えてください
大木洋さん(以下、大木さん)
2020年に商店街のイベントへ参加したことをきっかけに辰野町へ通うようになり、東京・田端との二拠点生活を始めました。翌2021年には地元の方の紹介で今の住居と出会い、最初に借りた場所に住みながら少しずつ改修をスタート。2022年に会社を辞めてデザイナーとして独立し、辰野町へ完全移住しました。同じ年には、改修を進める中でDIYイベントが開催され、多くの参加者とともに作業を進めました。その後も少しずつ改修を続け、4~5年を経て2026年2月から現在の住まいで暮らし始めました。
この物件に決めた理由を教えてください

大木さん
この物件は、地元の方から紹介していただき、お借りしています。仕事場と住まいを両立できる十分な広さがあり、商店街から車で約10分と便利でありながら、川が流れる自然豊かな環境にも魅力を感じました。
母屋に加えてキッチン棟やガレージ棟があるなど、新築にはない個性のある造りにもひかれました。それぞれの建物を自分たちらしくアレンジしながら暮らしをつくっていける「表現の場」だと感じたことが、この物件を選んだ一番の理由です。
DIYイベントではどのようなことを行ったのでしょうか?
赤羽孝太さん(以下、赤羽さん)
現在、辰野町移住定住促進協議会の会長を務めています。このDIYイベントは、この協議会が毎年行っている「若者向けDIYイベント事業」として実施したものです。大木さん宅での開催は、たまたま長野県の事業のフィールドワークとも重なり、6日間で延べ約150人が参加しました。
大工さんに講師として来てもらい、床の解体や下地作り、壁材剥がし、漆喰塗り、草刈りなど、それぞれの経験や技術に合わせて作業を分担しながら改修を進めました。
このイベントで大切にしているのは、地域に開くことです。回覧板で事前に案内したり、自由に見学できる時間を設けたりすることで、地域の方と移住者が自然に交流できる場をつくっています。空き家の活用を地域に知ってもらうとともに、移住者が地域になじむきっかけにもなっています。
■DIYについて聞く - 母屋
外観はどこをリフォームしましたか?

赤羽さん
黒い断熱サッシ(ペアガラス)は、「先進的窓リノベ事業」の補助金を活用し、DIYではなく専門業者に施工してもらいました。
大木さん
実際に窓を変えて断熱性能が上がり冬の寒さが和らいだと思います。趣味の楽器演奏による音漏れも減り、暮らしやすさが大きく向上しましたし、見た目も変わりました。
また、大掛かりな改修を続ける様子を見た近所の方から「本気でここに住むんだね」と声を掛けてもらうことが増え、地域との距離が縮まるきっかけにもなりました。
母屋1階の改修について教えてください

赤羽さん
手前の床に落ちているのは、繊維壁を剥がしたものです。この後、壁には漆喰を塗って仕上げました。
畳の部屋は床を一度すべて剥がし、新しい下地を組んで、その間に断熱材を入れました。イベントでは、その上にフローリングを張る前段階となる「ベニヤ板の捨て貼り」までを進めました。

大木さん
みんなで床を張るイベントを開く前に、シロアリの被害に遭っていた「大引き(床を支える基礎の木材)」をすべて交換する必要がありました。そこはプロの大工さんにお願いし、僕たち夫婦は床の解体やシロアリ防蟻剤(ぼうぎざい)の塗布など、イベントに向けた事前準備を進めました。
イベント当日は参加者の皆さんが本当に熱心で、想像以上の速さで作業が進みました。そのため僕は作業よりも写真や動画の記録を担当しながら、手が空いた人に次の作業をお願いするなど、全体の進行役を務めました。
母屋1階は、DIYイベント後どのような状態になりましたか?

赤羽さん
DIYイベント後の写真です。壁は漆喰で仕上げ、床は下地づくりまで終わっています。写真右側に積まれているのは、これから施工するフローリング材で、仕上げに入る段階です。
大木さん
床剥がしは妻と一緒に作業したので、1~2日ほどで終わりました。道具も大きめのバールとマイナスドライバーがあれば十分で、あとは気合いですね(笑)。
それまで町の住宅や商店街のお店のリノベーションに参加し、解体作業や漆喰の塗り方などを教わっていました。そこで学んだことを、「今度は自分の家でもやってみよう」という形で生かしています。
DIY初心者でも漆喰は塗れますか?

赤羽さん
柱や梁に付かないよう、あらかじめマスキングをしてから作業を進めました。これもDIYイベント当日に参加者の皆さんと一緒に仕上げた部分です。
漆喰は塗ってから1日ほどで乾きます。DIY初心者なら、ホームセンターなどで販売されている、あらかじめ練ってあるペースト状の商品がおすすめです。バケツからそのままコテで塗ることができ、手軽に挑戦できます。漆喰は調湿効果も期待できるため、室内環境を整えるメリットもあります。

大木さん
壁をDIYしてみて、一番勉強になったのは、石膏ボード同士のつなぎ目の処理です。つなぎ目に「寒冷紗(かんれいしゃ)」という補強シートを張り、その上からパテを塗って平らに整え、シーラーで下地を固めてから漆喰を塗ります。この下地処理を丁寧に行わないと、仕上がったときにつなぎ目が目立ってしまうため、見えない部分こそ大切だと実感しました。失敗しても自分の家なので、その経験を次のDIYに生かせるのも魅力だと思います。

大木さん
廊下は、これから天井を改修する予定です。その際に上から落ちてくる埃で、せっかく仕上げた漆喰の壁が汚れないよう、一時的にシートで保護しています。
母屋2階は、その後どのように改修を進めましたか?

赤羽さん
この2階は、DIYイベント終了後に改修を進めた場所です。DIYは経験を重ねるほど技術が身に付きます。辰野町ではイベントを年に1~2回開催していますが、何度も参加してくれる人は腕がどんどん上達します。大木さんもまさにその一人です。
壁は石膏ボードを一度剥がして断熱材を入れ直し、新しいボードを張ってパテ処理をした後、漆喰で仕上げています。天井も解体し、梁を見せる造りにしました。
大木さん
仲間にも手伝ってもらいながら漆喰を塗り進めました。写真では、グレーの部分が漆喰を塗る前の下地で、白い部分が仕上がったところです。天井の塗装は、ずっと上を向いて作業するので「地獄の作業」でした(笑)。
床は現在、捨て貼り(下地)まで終わっていて、これからボンドとフィニッシュネイラを使ってフローリングを張る予定です。細かな作業はYouTubeを見たり、赤羽さんに教えてもらったりしながら進めています。

大木さん
手前の和室の押し入れと奥の床の間は解体してクローゼットにしました。入り口のアーチは大工さんに作ってもらいましたが、曲線の仕上がりがどうしても気になってしまい、一度壊して自分で作り直しました。時間はかかりましたが、一番こだわった場所の一つです。
■DIYについて聞く - ガレージ

ガレージはどのように住まいへ改修していったのでしょうか?
赤羽さん
ここはもともと軽量鉄骨造の倉庫で、断熱材もなく、骨組みがそのまま見えている状態でした。住める空間にするためには、床や壁に下地を組み、断熱材を入れるところから始める必要がありました。
ガレージはもともと断熱されていないことが多いため、住まいにするには床や壁、天井に断熱材を施工することが大切です。一方で、柱や間仕切りの少ない開放的な空間は、ガレージならではの魅力でもあります。その特徴を生かしながら住まいへと改修していくのが良いと思います。
大木さん
実はこの場所は、もともと和室が二間と廊下だったんです。2021年ごろ、妻と2人で約3カ月かけて壁や押し入れなどを解体し、軽量鉄骨の骨組みだけの状態にしました。「骨組みを見せた方が格好いいんじゃないか」と考えたのも、この空間づくりのきっかけでした。

赤羽さん
床には根太を組み、その間にグラスウールの断熱材を敷き詰めました。グラスウールは柔らかく、カッターで簡単に加工できるため、DIYでも扱いやすい断熱材です。場所や施工方法に合わせて、適した断熱材を選ぶことが大切です。

赤羽さん
床の下地には「サブロク板(910ミリ×1820ミリ)」と呼ばれる規格サイズの構造用合板を「捨て貼り」として張り、根太にビスで固定していきます。合板は季節による温度変化でわずかに伸び縮みするため、詰めすぎず適度な隙間を設けることが、床鳴りや反りを防ぐポイントです。この上にフローリングの仕上げ材を張るため、多少隙間があっても問題ありません。
ビスを打つ間隔は約15センチが目安です。DIYイベントでは、大工さんが見本を見せながら、参加者も実際に作業してコツを学びました。

赤羽さん
壁の下地に断熱材を入れ、石膏ボードを張り、パテで下地を整えながら仕上げていきました。奥の正面に見える白い壁は塗装まで終わっています。
DIYイベントで施工できたのは、床や壁の下地づくりと断熱材を入れるところまででした。その後は大木さんが数年かけて少しずつ改修を進め、DIYでは難しい部分は相談を受けたり職人さんにお願いしたりしながら、現在の住居兼仕事場へと仕上げていきました。
大木さん
実は床のフローリングはまだ張っておらず、リノベーションサイトで購入した古材の足場板を床の上に並べて使っています。ビスで固定はしていませんが、これだけでも十分に生活できています。この使い古されたラフで味わい深い質感が気に入っているので、将来的にはこのまま足場板を固定して正式な床にしようと思っています。
一番大変だった作業は?
大木さん
一番大変だったのは、ガレージの天井に板を張る作業です。天井高が約4メートルあるため、市販の足場を買う代わりに約5,000円で材料をそろえ、自分で足場を製作しました。当時は妻が妊娠中で、1人で作業することも多く、本当に大変でした。
天井にはOSB合板を使用しています。DIYらしいラフな雰囲気が気に入っていますが、将来的には漆喰で仕上げる予定です。自作した足場は今も部屋に残していて、飼っているネコの寝床や、娘の遊び場になっています。
■DIYをしながら暮らす
ガレージ2階での暮らし心地はいかがですか?
大木さん
今のところ、このガレージ2階が一番のお気に入りの場所です。これまで天井の高い空間に住んだことがなかったのですが、実際に暮らしてみると、とても開放感があって気持ちがいいですね。現在はリビングと寝室、仕事場を兼ねた空間として使っています。東側の窓から朝日が心地よく入り、太陽の光だけで自然と目覚められるのが最高に気持ちいいです。
まだまだ手を入れたいところはたくさんありますが、実際に暮らしながら「ここにこういうものが欲しいな」と考え、次のDIYプランをじっくり検討できる今のプロセスそのものが、とても楽しいですね。

今も改修は続いているんですよね?
大木さん
DIYリノベーションの魅力は、最初からすべてを決めるのではなく、実際に暮らしながら、自分たちに合った形へ少しずつ整えていけることです。キッチンの高さも、今は妻と実際に使いながら調整している途中で、まだ完成形ではありません。
住んでみて初めて分かることを次のDIYに生かせるのも、この暮らしの面白さだと感じています。

DIYで『できるところ』と『専門業者に任せるべきところ』の線引きを教えてください
赤羽さん
まず「業者に任せるべき工事」は、電気、ガス、水回りなどの設備関係です。電気は無資格での施工が法律で禁じられており火災のリスクがありますし、ガスも事故の危険があります。信州の水回りは、凍結対策のヒーターの巻き付けなどが甘いと後から大きな修理費用がかかるため、プロに頼むのが賢明です。
一方でDIYに向いているのは、床のフローリング張りなどの一部の木工事や、壁を塗る・張るといった仕上げ工事、一部の解体作業です。ただし、柱や梁、土台、壁の中の「筋交い(すじかい)」など建物を支える構造部材には手を付けてはいけません。古い住宅は旧耐震の建物も多く、構造を傷めると耐震性に影響するため、専門家に確認しながら進めることが大切です。
職人さんに頼むということは、正確性と時間を買うことでもあります。一方、DIYは時間がかかり、仕上がりに多少のばらつきが出ることもありますが、自分で手を掛けた分だけ愛着が湧きます。
全部を自分でやる必要はありません。まずは一つでも自分の手でやってみると、DIYの楽しさを実感できると思います。

空き家DIYならではの魅力を教えてください
大木さん
新築はどこか似たような家が多いと感じますが、空き家には「なぜここに蔵があるんだろう」「どうしてこんな造りなんだろう」と、一軒一軒に個性があります。その個性を生かしながら、自分たちらしい暮らしへアレンジしていくことが、DIYの大きな魅力だと思っています。人と同じではない、自分らしい家づくりを楽しめることが、空き家DIYの面白さですね。

空き家を改修して、費用はどれくらいかかりましたか?
大木さん
大工さんの費用や薪ストーブ、窓工事なども全部ひっくるめると、総額で約500万円かかっています。DIYだからといって、必ずしも費用が安くなるわけではありませんが、その分、自分たちのやりたいことを形にできるのが魅力だと思っています。

■辰野町の魅力は?
辰野町のどんなところを気に入っていますか?
大木さん
辰野町を選んだ理由の一つは、赤羽さんの存在が大きかったことです。当時はまだ新しい取り組みが始まったばかりで、「これからみんなでつくっていこう」という雰囲気がありました。赤羽さんからデザインの仕事を任せてもらうなど、自分が地域に関われる機会が多く、それが今のローカルでの仕事にもつながっています。完成されたまちではなく、自分も地域づくりに参加できる「余白」があることが、辰野町の一番の魅力だと感じました。

地域との関わりはいかがですか?
大木さん
辰野町には、みんなで助け合いながら暮らしをつくる文化があります。商店街のDIYでは、「漆喰を塗るから手伝って」と声を掛ければ、経験の有無に関係なく自然と人が集まります。道具を貸し借りすることもあり、やる気さえあれば楽しめる環境です。
DIYを始めた頃は、「何をやっているの?」と近所の方が様子を見に来てくれることもありました。住み始めて数年がたつと、野菜をいただいたり、「昔ここで宴会をしたんだよ」と、この家にまつわる思い出話を聞かせてもらったりするようになりました。大学のキャンパスのように、人とのつながりを楽しみながら暮らせることも、辰野町の魅力だと感じています。

地域の人たちが協力してDIYで改修した店舗
DIYを通じたまちづくりについて、どのように考えていますか?
赤羽さん
DIYは家を直す技術だけでなく、自分の暮らしを自分でつくるという楽しさがあります。辰野町にはDIYの道具を貸し借りしたり、作業を手伝い合ったりする仲間がいて、そうしたつながりが自然と生まれています。自分の手で暮らしをつくりたい人には、とても向いている地域だと思います。
サービスを受けるだけではなく、自分も地域の一員として関わりながら暮らしを楽しみたい。そんな人が増えてくれるとうれしいですね。

トビチマーケット
移住を検討している人へメッセージをお願いします
大木さん
自分でできることは自分でやってみようという気持ちがある人には、辰野町はとても合うと思います。一方で、全てをサービスとして受けたいという人には、少し大変かもしれません。
移住を考えるなら、イベントだけでなく平日の普段のまちの様子も見てほしいですね。イベントの日と何もない日の両方を訪れることで、暮らしの雰囲気をよりリアルに感じられ、移住後のミスマッチも少なくなると思います。

※写真23枚:大木さん提供

