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辰野町へ移住をお考えの方へ移住先市町村の話題

update : 2022.08.18

写真(大城山から辰野町を望む)、地図:辰野町役場提供

日本の地理的中心地点があることから「日本のど真ん中町」ともいわれる辰野町。県内外へのアクセスの良さに加え、さまざまな移住定住支援で移住者に人気の町です。

行政や不動産業者らが連携し「ヒト・コト・モノ」をワンストップでつなげる窓口として役場内に設置された「たつの暮らし相談所」では、空き家バンクのほか、新たに「さかさま不動産」の運営も開始し、空き家物件の掘り起こしが期待されています。
ほかにも空き家DIYイベントや休眠不動産見学会、商店街の空き店舗活用、新たに導入された空き家バンク仲介手数料補助制度など、「移住者」「地域」「空き家」をつなぐ取り組みが注目されています。

今回は辰野町地方創生担当係長の一ノ瀬さん、地域おこし協力隊の鈴木さん、たつの暮らし相談所メンバー、一般社団法人◯と編集社の代表理事・赤羽さんにお話を伺いました。

(左から鈴木さん、一ノ瀬さん、赤羽さん)

はじめに、移住者の傾向などをお伺いできますか?

鈴木さん 2020年度は新型コロナの影響で積極的に辰野町に来るというよりも、オンラインでの移住相談などがメインでした。その当時はコロナの状況を踏まえて、人が密集していない地方にエスケープしたいという30~40代の現役世代のzoom相談が増えましたが、実際に現地に来てというお話は少なかったなという印象です。

翌年2021年になり、新型コロナの状況にも慣れ、現役世代のほか、現役を引退してセカンドライフとして来る方もいました。その中でも、うまく転職が決まった方の移住が多かったなと思います。もしくは若い世代で自分たちらしい暮らしをしたいとう方は「来てからなんとかする」という馬力があるので、ヨガ教室など自営の仕事をつくり、移住される層もいた印象です。

2022年度になり、テレワークが定着して来た方は、どちらかというと地理的な要件、本拠地が首都圏の場合は首都圏との行き来とこちらでの環境を重視するような現役世代が、単純に場所を選んで来たという印象でしたね。

また、転職よりも自力でお店を開くケースが引き続きありますね。開業については町の特性もあって、物件が比較的安価で借りられたり、買えたりするので、初期費用が安く抑えられます。直近はカフェとカレー屋さんの2軒でまとまりました。

どのエリアへの移住が多いですか?

鈴木さん 「ザ・田舎暮らし」のような景観が良くて畑や田んぼがあるエリアを希望される方は、「長野県移住モデル地区」になっている川島地区を選ばれる傾向です。子育て層が割と多く、けっこう首都圏の方が多いですね。

写真:辰野町役場提供(辰野町川島地区)

空き家バンクについてはいかがですか?

一ノ瀬さん 平成26年からのトータルですと登録が190軒で、そのうち17の地区別の登録件数は、川島地区24軒、中心部の宮木地区32軒、下辰野地区27軒、平出地区27軒です。市街地は圧倒的に空き家の数が多いので、それが徐々に出始めてきたかなという感じです。

川島地区は子育て世代に人気のエリアなんですね

一ノ瀬さん 地域の取り組みとして、住民が子育て世代を求めていたり、空き家物件を積極的に空き家バンクに出していこうという動きがありますので、必然的に登録件数が多くなります。

赤羽さん 都会から来る人はわざわざ中途半端な街中よりも、日本の原風景のような里山を求める傾向なので、小野地区とか川島地区をご希望される方が比較的多いですね。

補助金についてはいかがですか?

一ノ瀬さん 家財道具等の処分運搬費に最高15万円(掛かった費用の2分の1以内)、空き家物件の改修に最高30万円(掛かった費用の2分の1以内)を補助しています。

空き店舗については、商業地域空き店舗等対策事業補助金として対象物件の新築・改修工事に掛かる費用(の2分の1以内)に対し最高30万円、また対象物件の賃借料で出店してから12カ月間の当該経費の2分の1以内(1カ月に2万5000円まで)を補助しております。

さらに定住促進奨励金として町内に居住する目的で個人住宅を建築または購入する場合、40歳未満の方は50万円、40歳以上で子ども1人につき10万円以内の補助があります。

空き家バンク仲介手数料補助金について教えてください

鈴木さん これまでの不動産売買について、100万円の物件を仲介しても1000万円の物件を仲介しても手数料はパーセンテージで決まっているので、仕事の量は変わらないのに、不動産業者さんの収入(仲介手数料)は全然違うという状況がありました。そうなると必然的にご商売になる金額、例えば400万円~500万円のすでに片付けもされていて、比較的すぐ住める物件が流通して、それが活発に動いている現状があります。

一方で、空き家バンクでまだ使えるけどこれ以上放置すると危険空き家にランクダウンしてしまう物件や、価格が低く老朽化もしていて仲介者責任も問われるようなリスクのある物件も多く、今後もこのような物件が増えていくことが予想されます。

「低廉物件はどうやったら動かしていけるのか」を考えると、不動産業者さんが普通に仕事として受けられることが必要だなと感じて、この仲介手数料補助制度を発案しました。この制度で400万円以下の空き家バンク物件の売買時の売り主さんへの仲介手数料を最大18万円(税抜)まで補助することが可能となりました。

赤羽さん 2018年ですかね、国の方で、不動産業者さんがあまり扱いたくない低廉物件は売り主さんと合意ができた場合、400万円の物件と同じ仲介手数料(税込み19万8000円)を上限に現地調査費用を含む形でもらえますという手数料の法改正がありました。

なので今回、通常法定で今まで通り払わなければいけないものは売り主さんに負担していただいて、改正で認められ上乗せされている部分について差額を町が補助するということです。

空き家バンク登録物件が増えると移住希望者さんも空き家物件の選択肢が広がるわけで、移住促進にもつながります。

PDF:辰野町役場提供(仲介手数料補助金算出表)

新たに導入された空き家物件のマッチングの取り組みについて教えてください

赤羽さん もともと三重県桑名市の株式会社On-Coさんが始めたウェブサービスになるんですけど、今までは「住みたい」とか「何かやりたい」という人が民間の不動産業者さんや空き家バンクのサイトを見て、物件を買いたい・借りたいなど、何かやりたい人が物件を探すというアプローチですよね。

それを逆構造にしたのが「さかさま不動産」で、まず自分が何をやりたいのか、例えば「パン屋さんをやりたいんです」などの情報を公開します。
それで空き家のオーナーさんがそのプロファイル情報を見て「あなたなら貸したい」というアプローチができるのが「さかさま不動産」のサービスです。

イラスト:You Oki Design 提供(さかさま不動産)

「こういう人があなたの物件に興味を持っているんですけど貸してくれませんか」という話ができると、「知らない人に貸すのは怖い」と思っていたオーナーさんの中には「誰か分かるなら貸してもいい、売ってもいい」という方が出てくると思うので、そういう非流通物件の掘り起こしや、マッチングができるようになります。
今回、長野県では初となり長野支局辰野営業所として開設しました。

一ノ瀬さん 全国初の“空き家バンクとの連携”もポイントです。

赤羽さん 今のところ全国に支局は気仙沼支局と広島支局が開設されていまして、辰野町では運営するのが「たつの暮らし相談所」ですので、空き家バンクの運営と同じところが「さかさま不動産」も運営する形です。今は空き家バンク物件を案内するときに「どんな物件でどんな暮らしをしたいのか」アンケートしていまして、そのアンケートに「さかさま不動産への掲載を希望するか・しないか」の意向調査の項目を新たに追加して「掲載する」方には改めてアポを取って取材をして載せていく流れです。

イラスト:You Oki Design 提供(空き家バンクとさかさま不動産の連携イメージ)

なのでもちろん空き家バンクで良い物件が出てくれば「良い物件が出てきましたよ」というご連絡もしますし、そこら辺の連携で全国初になります。
物件も人も地域の資源だと思うので、その資源の良いマッチングができると持続可能で豊かな地域になっていくと考え、そこを目指しています。

この「さかさま不動産」の仕組みは国土交通省の「第1回まちづくりアワード実績部門」で特別賞を受賞され、注目度も高いと思います。

DIYのサポート事業についてはいかがですか?

赤羽さん もともと空き家バンク創設にあたって官民の「辰野町移住定住促進協議会」が立ち上がり、現在は、空き家の相談会やDIYイベントを行っています。

DIYイベントは空き家バンク物件が対象になりまして、講師として大工さんを呼んだり左官屋さんをお呼びして、参加者にDIYのやり方、壁をはがしたり、床を張ったり、漆喰(しっくい)を塗ったりする作業を指導してもらいます。
また、SNSやイベントのチラシを作って回覧版を回して告知・集客も行っています。

写真:辰野町役場提供(農民家ふぇ「あずかぼ」のDIYイベント)

空き家バンクのオーナーさんは参加者とともに格安で空き家バンク物件をDIYできる代わりに、移住希望者さんが来たときに「先輩移住者としてお話を聞かせてください」とお願いしています。今までにカフェ、ゲストハウス、シェアハウス、一般の住宅、古着屋さんなど7軒ほどDIYイベントを開催しました。

写真:辰野町役場提供(ゲストハウスアトリエ和音のDIYイベント)

やってみてわかったことなんですが、地域にソフトランディングできるという点が一番いいなと思います。ある一定の期間、行うのでその間に「手伝わなくてもいいので見学に来てください」という回覧板を回し、どんな人が来るのか、何をやるのかを地域の人に理解してもらいやすいです。それで漬け物を持って来てくださる住民の方もいますし、地域の方と少しずつつながっていただく中でお店をオープンし、暮らし始めるときには地域の方々も知っているので受け入れてくれる状況ができます。

休眠不動産見学会についてはいかがですか?

赤羽さん 前回の第32回目は5月に行いまして、2カ月に1回、奇数月に開催しています。この見学会は「たつの暮らし相談所」が主催しておりまして、商店街の活性化を目的に空き店舗や空き家を回ります。空き店舗の他にも新たに開店したお店も回り、1日で5~6軒ほど回ります。

この見学会については申し込み制ではなく決められた時間に下辰野商店街の「グラバイステーション」に集まっていただき、参加者がいなくても開催しています。この見学会もずっとやっているので地域の人たちに理解をいただけるようになり、住民とも情報交換などができ活性化につながっていると感じています。

下辰野商店街の“トビチマーケット”について教えてください

赤羽さん イベントをやりたいというよりは僕たちは暮らしづくりをしていると思っているので、「10年後、商店街の暮らしが楽しくなっているといいね」ということで「10年後を1日だけ前借りする」というコンセプトで2019年に開催しました。

写真:トビチ商店街提供(トビチマーケット)

下辰野商店街とその周辺の21の空き店舗・空き地をお借りして県内外から54店舗が1日限定で集まり、町内外から4000人以上が訪れました。空き店舗、昔からのお店、新しいお店を新たなコミュニィティー空間として「全部のシャッターが開いてなくても、飛び飛びの商店街でもいいよね」という考えで「トビチマーケット」と名付けました。

写真:トビチ商店街提供(トビチマーケット集合写真)

その「トビチマーケット」をきっかけに、最近は商店街にもポツリポツリとお店ができはじめていて、出店してくれた方が実際にお店を開いてくれたり、そのイベントに遊びに来てくれた人がお店を始めたりしています。

写真:トビチ商店街提供(2021年オープン、4店舗が入るEquinox STORE)

トビチ商店街での中高生たちの取り組みをニュースで拝見しました

赤羽さん 商店街の空き店舗の一角に中学生、高校生が自分たちで自治をして自分たちで運営する場所をつくっています。その学生さんたちが場所を無償で使える代わりに地域や商店街の情報を取材・編集していて、2カ月に1回「トビチ通信」として発行しています。

地域の若者に「商店街、面白いよね、地域、面白いよね」と思ってもらえないと未来につながらないので、そんな取り組みもしています。

同じく空き店舗や空き家の活用事例として、商店街周辺全体を一つの美術館として見立てて「トビチ美術館」という期間限定イベントを宅建協会南信支部さんと共催という形で去年行いまして、このイベントを今年も開催します。

「空き家や空き店舗をこんなに楽しく使えるよ」という観点で、空き家や空き店舗があることは問題ではなく「資源ですよ」というところを強くお伝えしたいですね。
10月15日から27日まで、地域の空き家から出てきた家財道具や不要品などをアーティストにアップサイクルしていただきまして、作品を作っていただく内容です。世界中のアート関係者から、いらなくなって廃棄するアート関係の美術本を送っていただいて、「アートブックライブラリー」として街中にアートブックを散りばめる形です。“空き家は宝の山”です。

イラスト:(一社)◯と編集社提供(トビチ美術館2022)

最後に、これからの街づくりについてお伺いできますか?

一ノ瀬さん 辰野町の地域社会には、地縁でつながっている自治会を中心とするコミュニティーと、「トビチ商店街」も含めて何かやりたいことを仲間とつくっていくテーマ型のコミュニティーがあると思っていて、これからはこの2つのコミュニティーを中心に地域が持続可能性を帯びてくると考えています。

一方で、地域課題もあります。ポジティブな思考の若者たちが地域に移住してきて、住民は都会などからの若者を受け入れているように見えるんですけど、若者が地域の中で今までのルールに対して正面から取り組もうとすると、まだまだ地域が柔軟に対応できなかったり、スピード感がなかったりするケースもあります。

それは村社会の当たり前の姿なんですけど、若者の広がりが少しずつ地域に理解されていくという姿が理想ですし、行政側としてはそういうところに期待したいです。

今までの例ですと、空き家のDIY事業も、地域が好奇心で見るのではなく住民も参加して、地域に移住者が受け入れられていく事例の広がりだと思います。

もう一つは、以前、渋谷のコワーキングスペースを見せてもらったんですが、空きビルのフロアを借りていろいろな人がシェアオフィスのように集まっていて、必ずそこにはオアシスのようにその一角にカフェや情報交換するような場があるんですが、もしかしたら辰野町の場合は、トビチ商店街がエリアとして同じような機能を果たしているんじゃないかと思います。

ですからテレワークをやる人は辰野町の豊かな自然環境の中で過ごしたり、ビジネスをやったり、あとはこだわりのあるカフェや飲めるところがあったり、アウトドアの拠点やダンススペースがあったり、そういう楽しめる場所が融合しているのが、トビチ商店街のこれからの姿ではないかと思います。

赤羽さん 僕たちの活動からすると「友達100人できるかな」と思っていて、移住定住の話だと単純に数の話になりがちなんですけど、「100人の受動的な人に来ていただくのと、1人の能動的な人に来ていただくのと、10年後の未来を考えたときにどちらがいいですか?」という質問をすると、皆さん、だいたい同じお答えになります。

地域は安売りする必要はないと思いますし、地域のいろいろなものが資源なので、それを「いいな」と言ってくれる人に来ていただければうれしいです。そういった方々に対する“関わり・関わりしろ”、そういったものを提供できるような活動をしながら、「自分たちの暮らしが豊かになるような」とか「友達が増えて楽しい」そういうところを目指してやっていきたいなというのは今までも、これからも同じですね。

鈴木さん 楽しい町になったらいいですね。

赤羽さん 鈴木さんも今、楽しい場所をつくっている中心にいますので。彼はヒップホップダンサーなんですけど、一緒に商店街の空き店舗をダンスイベントやダンスレッスンができる場所づくりをしました。

写真:&garage提供(ダンスイベント、ダンスレッスン)

鈴木さん 現在、4歳から59歳の方まで22名会員がいます。辰野町はダンスレッスンができたり、イベントができたり踊れるスペースが今までなかったんです。ダンスをやりたいという人は増えていますね。

赤羽さん 松本とか岡谷とか30分圏内、もしかすると1時間かけて来る方もいます。

鈴木さん 遠いところだと茅野から来られる方もいます。

赤羽さん 関係人口って言いますけど、まさにそういう辰野町のことも好きになってくれる人が増えていて、それが結果的に「移住したい」とつながると思うので。

鈴木さん 楽しいとかが僕は一番だと思います(笑)。

(左から一ノ瀬さん、赤羽さん、鈴木さん)

 

※記事の内容は取材時のものです。最新の詳細については市町村や取材元にご確認ください。


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