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長野地区
長野市移住体験談 西沢様
update : 2025.05.28
令和6年1月1日に発生した能登半島地震では多くの木造住宅が倒壊などの被害を受けました。中でも1981年以前に造られた旧耐震基準の多くの家屋は甚大な被害を受けています。この地震による被害を受け、長野市では1981年以前に造られた旧耐震基準の木造住宅の耐震改修を促進するため、2024年度に続き2025年度も、要件をクリアした木造住宅の耐震改修工事に最大150万円(※令和7年度限定)の補助金を交付しています。(予算に達した場合、終了)さらに耐震改修後の総合評点が1.0以上の場合、県からも上乗せ補助として50万円の加算を受けることができます。(予算に達した場合、終了)
今回は、東京から長野市に移住され、補助金を活用して耐震改修工事を行なった西沢さま、耐震診断を担当された建築士、補助金を交付する長野市にお話を伺いました。
■はじめに、無料耐震診断を受け、耐震改修工事を依頼した西沢さんにお話を伺いました。
耐震補強を行なったきっかけを教えてください
西沢さん 東京で40年働いていたのですが、定年退職を機に長野市にある妻の実家が空き家になっていたので、移住することにしました。妻の実家は1964年に建てられた古い家なので、壁にひびが入っていたり、全体的にリフォームが必要だなと思っていたところ、長野市で無料の耐震診断をしているということを聞き、これを利用して耐震補強を考えました。その後、能登半島地震をニュースで見て老朽化した瓦屋根の住宅などが、かなり被害を受けていたので、耐震改修の必要性を改めて痛感しました。令和5年の秋口に耐震診断をお願いしたのですが、工事は翌年になりました。
工事期間はどれくらいでしたか?
西沢さん 耐震化と併せて全体的にリフォームをしたのですが、耐震改修は約3カ月くらいでした。
工事費はいくらかかりましたか?
西沢さん 屋根の改修にかなり費用がかかったので約600万円でしたが、今回、長野市と県の補助金を利用して、満額200万円の補助金を頂くことができ、ありがたかったです。
税制控除もありましたか?
西沢さん 工事後の総合評点が1.0を超えていれば翌年の固定資産税が2分の1になり、所得税も控除があると聞いています。
申請書類の作成や報告はいかがでしたか?
西沢さん 無料耐震診断は自分で役所に行って手続きをしましたが、補助金の申請は施工業者さんが行なってくれることが多いようです。
耐震補強をしてみて、仕上がりなどはいかがですか?
西沢さん 屋根の鉄板(ガルバリウム鋼板))が良い色で、きれいに見えるから良かったですし、壁も工事したとはわからないくらいの仕上がりだったので、良かったなと思いました。筋交いなどを多く入れると外から見てきれいじゃなかったりすることもあるようですが、そういうこともなく、内装的にも良かったなと思います。
耐震改修工事の感想はいかがですか?
西沢さん 長野市の補助金は全国的に見ても高い水準だなと感じました。耐震診断も民間ですとかなりの金額がかかりますが、長野市は無料ですし。うちの場合は屋根も改修したので金額が大きくなりましたけど、壁の補強だけなら200万円ほどで収まるケースもあると聞いていますので、長野市なら補助金+αで足りることもあるかもしれませんね。
東京を離れ長野で暮らしていくことにしたのですが、耐震改修をして「これで安心して生活ができるな」と感じました。
■長野市建築指導課建築防災担当にお話を伺いました(4月上旬)
補助金を活用して耐震補強を行なうまでの流れを教えてください
長野市建築指導課建築防災担当(以下、長野市) 長野市では無料で木造住宅の耐震診断を行なっています。まず長野県木造住宅耐震診断士が住宅の耐震診断を行なって、その結果で総合評点(目視などにより、建物の耐震性を評価し専用ソフトで計算した数値)が1.0未満で耐震性が低いと診断された場合、耐震改修を検討していただきます。
住宅耐震改修補助金を使う場合には、診断士(建築士)と補強箇所など打ち合わせをし、申請していただきます。その後、決定通知が出てから工事を契約し、工事完了後に工事の実績報告書を提出して、総合評点が工事前を上回り0.7以上に補強された工事に対して補助金を支払います。
無料耐震診断の対象を教えてください
長野市 以下のような住宅が対象になります。
1、1981(昭和56)年5月31日以前に着工された旧耐震基準の住宅で市内に存するもの
2、在来軸組構法の木造住宅(平屋か2階建て)
3、長屋および共同住宅以外の個人が所有する住宅
2025年度は、耐震改修の補助額はいくらですか?
長野市 耐震改修工事費の5分の4で、上限150万円になります。期間は令和7年4月1日〜(1年間のみ)で、対象工事は令和8年1月31日までに工事完了および実績報告できるものになります。2025年度は4月(14日)時点で前年より多くの申請をいただいていまして、予算に達した場合は終了となりますが、耐震診断の結果、総合評点が1.0未満の住宅は翌年以降の補助金申請が可能となります。
150万円の補助は他の市町村より手厚いですね?
長野市 工事費用は過去の実績から見ると200万円から250万円の方が多かった実績を考慮しました。長野市内には旧耐震基準の住宅が約1万9000戸あり、能登半島地震で市民の皆さんの防災意識が高まっているこの時期を捉えて、大規模地震で倒壊の恐れがある住宅の耐震化支援として、上限150万円を補助しています。
2024年度の長野市の耐震改修補助金の受付件数は70件でしたが、2025年度は90件に拡大しています。
また、県も別で耐震化の事業を実施していて、耐震改修後の総合評点が1.0以上の場合、上限50万円まで加算できるようになっています。
補助金交付の目安は総合評点の数値になりますか?
長野市 市の補助は耐震改修後の総合評点0.7以上が補助対象となります。耐震性能を考えると、現在の耐震基準となっている1.0(大規模地震で倒壊しないレベル)に上げてほしいのですが、1.0まで補強するのは費用もかかりますので、段階的な補強として人命を守るために総合評点0.7以上の改修でも補助しております。
総合評点0.7はどれくらいの耐震性能ですか?
長野市 下の耐震改修チャート図は、「名古屋工業大学建築・デザイン分野井戸田研究室の井戸田教授が運営される「達人塾ねっと」(https://tatsujinjuku.net/)が使われているものになります。
※「達人塾ねっと」では巨大地震時の住宅被害を減らすため、古い木造住宅の耐震改修促進に向けた建築士・設計士向けのスキルアップをサポートする
下の図を見ていただきますと、耐震基準となる総合評点1.0の耐震性能では、震度5強の地震で「小破」、震度6弱の地震で「中波」と考えられ、壁にひびが入ったり、屋根なども崩れたり(窓、扉の開閉不具合、内装仕上げの剥離など)して多くの場合、避難ができて、かなり修復費用はかかるとみられていますが、住宅の倒壊は免れると想定しています。
総合評点0.7の住宅では、震度5弱の地震で「小破」、震度5強の地震で「中破」と想定しています。
※クリックすると画像が拡大されます
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耐震改修チャート図:監修・制作:名古屋工業大学建築・デザイン工学科井戸田研究室ほか、
パンフレット「木造住宅の耐震リフォーム」より
また、先程の井戸田教授が中心となって「減災協議会(愛知建築地震災害軽減システム研究協議会)」では、「できるだけ安く耐震改修をする低コスト工法=A工法」も研究されていて、長野県内の他、西日本を中心に32府県で行政の補助対象の工法としてA工法が採用されています。
A工法は、実験室で実際の地震の揺れと同じ力を作用させ、耐震性能を確かめています。
※愛知県では、大規模地震の発生に備え、名古屋市、県内の3国立大学法人(名古屋大学、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学)及び建築関係団体と協力し、官・学・民の連携による「愛知建築地震災害軽減システム研究協議会を設立し、活動を支援している
特徴は、最低限の仕上げ材撤去で耐震改修ができることです。従来の耐震改修では、筋交いを梁や土台に取り付ける工法が採用されていたため、既存の天井、床の一部又は全部を解体•撤去する必要がありました。
それに対して、「A工法=低コスト工法」では、主に構造用合板や耐震金物の取り付け方を工夫して補強するため、コストや工事期間を少なくすることができます。
※クリックすると画像が拡大されます
A工法の説明:「減災協議会パンフレット、”するなら今です! 住まいの耐震化”」より引用
■実際に耐震診断を担当され、補強計画を提案された建築士にお話を伺いました。
西沢さん宅の耐震診断はどうでしたか?
担当建築士 耐震診断をした結果は、以下のように耐震診断報告書に記載しています。
診断結果から評点は0.57です。建築基準法で想定する(震度6強から7の)大地震で「倒壊する可能性が高い」と診断されました。
総合評価を下げた要因は次の通りです。
・全ての方向の保有耐力が不足しています。
・屋根が全て日本瓦葺きで重い建物とされています。雨樋の塗装等で劣化が見られ評点が下がりました。
・2階の南北方向の壁の配置バランスが良くありません。
・土壁仕様のため筋交いは無しとしています。補強に際しても土壁を残すようにしています。
・柱と梁や土台との接合が強固に固定されていないため、評点が上がりません。
実際にどのような耐震補強を提案されましたか?
担当建築士 診断の結果、次の通り補強方法の提案をしました。
・屋根瓦で重い建物のため鉄板葺きに変更し軽い建物とする検討もしました。(依頼者希望)
・劣化部分の補修は考慮しておりません。(雨樋は全て取替)
・2階の北押入、床の間内の壁を構造用合板や金物等で補強します。
・2階の廊下の壁を構造用合板や金物等で補強します。
・1階の和室の押し入れ内を構造用合板や金物等で補強します。
・1階の脱衣室の壁を構造用合板や金物等で補強します。
・1階の廊下の壁を構造用合板や金物等で補強します。
・改修部分の柱と土台、梁の接合部分を金物で補強します。
上記工事により評点は1.02となります。
実際の工事について教えてください
担当建築士 屋根瓦に比べ西沢さま邸で使用したガルバリウム鋼板は約10分の1以下の重さともいわれています。瓦屋根の重さを軽自動車に例えると、約十数台分の軽自動車が載っていると言えばイメージしやすいでしょうか。屋根が軽くなることで揺れの吸収力が変わり耐震性能も上がります。重い屋根瓦から軽いガルバリウム鋼板にするだけでも、西沢さま邸の場合、評点は0.57から0.82に上がります。

(工事前は瓦屋根)

(瓦の撤去作業)

(鉄板葺き(ガルバリウム鋼板をカラー鉄板長尺一文字葺きで仕上げる)に改修)
耐力壁や耐震金物の取り付けについて教えてください
担当建築士 耐震性能を強化するために「耐力壁」を家全体のバランスを見ながら配置していくことが必要になってきます。例えば、縁側は窓が多く壁が少ないため「耐力壁」として構造用合板を張ることで耐震性能が上がりますので、西沢さま邸では縁側の廊下の壁を3カ所補強していますし、2階の壁も3カ所補強しバランスの向上も考慮しています。
この「耐力壁」は、専用のビスを決められたピッチで打っていくことが耐震性能を高めるために重要です。
また柱と梁、柱と土台を固定する金物も必要になります。旧耐震基準で造られている住宅にはこの柱と梁、土台を留める金物が付いていないことが多く、大きな地震で揺れると柱が抜けてしまい、倒壊しやすくなるためです。柱と梁、土台などにL型金物などを取り付け柱が抜けないように補強しています。
また筋交いにも金物を取り付け補強しています。
下の写真の工事は2階廊下、壁の補強です。

(解体前)

(養生をして解体後)
※開口部があるため構造計算上はこの土壁の土は無しとしています

(使用した金物。左上の金物「リベロ」は筋交いの端部を接合する時に使用。
左下のL型金物「コンパクトコーナー」は柱と横架材の接合に使用する)

(柱頭柱脚金物補強として上部の両角(黄色の矢印)にL型金物(コンパクトコーナー)を取り付けて柱と梁の接合を強化)

(L型金物(コンパクトコーナー)を柱と横架材の接合に使用)

(土壁に構造用合板を取り付けるため下地材のアルミアングルを取り付け)

(アルミアングルに構造用合板を取り付け。
専用のビスを決められた間隔(10cmピッチ)で打ち込み、土壁と一体化)

(仕上げクロスの張替え。
低コスト工法は、既存の土壁を壊す必要がないため撤去•復旧が不要となり、工事コストや工期を縮減。工事の際、ごみやほこりも少なくなる)
担当建築士 次は1階押し入れの壁の補強です。

(工事前)

(解体)


(筋交い(上)/接合用の金物(下)。
奥の金物がコンパクトコーナー、手前がリベロ))

(筋交いで補強した後、構造用合板を取り付け)

(工事完了)
工事画像:全て担当建築士提供
こういった工事で室内は9カ所補強して、屋根もガルバリウム鋼板の一文字葺きで軽くすることで総合評点は改修前の0.57から1.02まで高めることができました。
近年は、震度6強クラスの大地震が各地で起きている現状を踏まえ、国も市町村も1981(昭和56)年以前の旧耐震基準の古い家の耐震補強を推奨しています。
西沢さま邸のように、そのような家屋は大地震で倒壊しないように補強することが身を守るために重要です。そのためにも、長野市では1981年以前の家屋の無料耐震診断を行なっていますので、まずは利用してみて自宅の耐震性能を確認しておくことが重要だと思います。
■改めて、西沢さまに移住後の感想を伺いました。
最後に、長野市に移住されて暮らしなどはいかがですか?
西沢さん 長野市郊外に住んでいますが、スーパーやコンビニ、ドラッグストアもあるので日用品の購入については、まったく困ることはありません。家の周りは自然が豊富で空気もおいしく観光地にも手軽に行けるので満足しています。
また、東京にも新幹線なら1時間半ほど、車でも約3時間で行けますので、そういった意味でも長野市はいいなと思っています。
ただ、冬は寒さが厳しくて、特に1月下旬、大寒が明けて2月いっぱいくらいでしょうか、光熱水費(電気•ガス•灯油など)が1カ月で10万円近くかかりましたので結構大変だと感じました。
また、夏は暑いと聞いているのでエアコンは必要だなと思って入れました。
あとガソリンも高いですけど、この辺は信号機が少なく、また渋滞も少ないので車の燃費は2割くらい良くなりました。そう考えると東京の時とガソリン代はトータルで変わらないかもしれませんね。
冬場の寒さと、光熱水費がかかる以外は、東京から来てみて特に困ることはないと思いますし、長野は暮らしやすいところだなと感じています。