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飯田市移住体験談 中島様ご夫妻
update : 2021.06.18
(飯田市と南アルプスの写真、リニア中央新幹線のルート図 共に飯田市役所提供)
飯田市は長野県の南部に位置する人口約10万人の地域です。南アルプスと中央アルプスに囲まれ、南北には天竜川が流れる日本一の谷地形「伊那谷」が広がっています。豊かな自然とすばらしい景観で四季の変化に富み、山・里・街の暮らしを満喫できるのが特長です。また、2027年にリニア中央新幹線が開業すると、名古屋へは約25分、品川へは約45分と大都市とのアクセスが格段に良くなり、より多様なライフスタイルが選択できるようになります。飯田市の「結いターン移住定住推進室」では仕事・住まい・子育て環境・地域コミュニティのことなど移住に関する全般的な相談を受け付けています。
今回は、飯田市にUターン移住された中島さん夫妻にお話を伺いました。
(中島さん夫妻)
初めに、移住された経緯をお伺いできますか?
ご主人 仕事はビジネスホテルの支配人で妻が副支配人だったので、365日休み無しの住み込みみたいな感じでとてもハードでした。東京と横浜で仕事をしていて、仕事の契約満了と同時に「次は何をしようかな」と、一度、地元に帰ろうと思い2020年の4月に飯田市に戻ってきました。
奥さま ちょっとゆっくりしたかったというのもありました。それに、都会の生活になじまないというところもありました。
最初に東京に行った時に体をこわし、今、思えば水と空気が合わなかったのかなと。あとは車の運転が好きだったので自由に動けない電車が苦手で、田舎で暮らしたかったです。
ご主人 場所は限定していなかったのですが、妻が田舎での暮らしを希望したのでいろいろ考えて農業を思いつき、その二つが飯田に戻った主な理由です。
飯田市の他に候補地はありましたか?
ご主人 農業で育てたい品目にイチゴがあったんです。隣の喬木村はイチゴが有名で飯田から近いので、実家から通いながらできるかなと思いました。ただ、帰って来た時点では他にも農業に適した場所やできることがあるのではと思っていて、それを確認するために実は去年の8月くらいに東日本を一周して来たんです。
いろんな選択肢を考えながら、漠然と自分が受ける印象を大切にして回っていました。いろいろ見ていく中でどこも似たり寄ったりだし、飯田に帰って来た時に山脈に囲まれた景色というのは唯一無二のものがあって、「やっぱり、やるならここだな」と落ち着きました。
(中島さん夫妻と結いターン移住定住推進室の担当者)
県の就農担当の方に相談した時は、「農業からサービス業にいく人はいるが、サービス業から農業にくる人はあまりいない」と言われました。お客さんに提供する側から作る側にという形ですけど、でも、それだからおもしろいのかなと思いました。ホテル時代はデスクワークで一日中パソコンと向き合っていたので、「この生活は人間的じゃないな」ということも感じていて、逆に太陽の下で土をいじりながら農業をやるというのは魅力的でした。
そして調べれば調べるほど、長野県の移住希望者の数が多く、でもほとんどが北信•中信•東信にかたよっていて。また、長野に観光に来て宿泊する割合が多いのは北の方。南の方は日帰りで帰ってしまうというデータもあって。ただ将来的にリニアが開通して三遠南信自動車道も開通して他県からの流入が増えてくると考えると、将来に対して準備しておくのは大事かなと思いました。
奥さま 主人から農業という話を聞いた時は「いいじゃん」と思いました。ホテルの中で缶詰状態だったので、外に出たいという気持ちもあったし、農業に憧れもありましたね。
飯田市役所の結いターン移住定住推進室ではどんなことを相談されましたか?
ご主人 「農業をやりながら住みたいんですけど」みたいな(笑)。
当時は農業に組み合わせて何かできることを探していました。今思えば、相談できる方がいたことと農村起業家育成スクールを紹介してもらったことが大きな起点になりましたね。農村起業家育成スクールは市が主催している農村資源を活用した起業家を育てるビジネススクールです。外部の講師の方が来てくださって月1回、年間で7回程、受講生を募って教えてくれます。
1年間かけて自分のビジネスプランを立てていくのですが、内容は座学がメインで、去年は6人参加しました。必ずしも農業だけではないんですが、農村資源ということで何が資源になるか、ビジネス価値になるか分からないので、そこから掘り下げを一緒にしてくれる内容です。
農村には資源がたくさんあるので都会の需要と掛け合わせて何かつくりだしましょうという感じでした。ちょうど、自分が悩んでいたテーマとマッチしていたので、1年かけてどんどん具体化していった感じです。
受講されていかがでしたか?
ご主人 僕が一番思ったのは、資源は資源としてあるんですけど、その資源をしっかり深堀りしなきゃいけないところと都会の「田舎は魅力的だな」と思うこと「その需要はどこが一番メインなのか。強く望んでいることは何か?」、それを掛け合わせてビジネスモデルにするということを文字に起こして書いてみると意外と口で言うよりも難しかったということです。基本的には自分で見つけていくんですけど、講師の方がいろんな指摘や、アドバイスをしてくれるので、気付きは毎回、ありましたね。おもしろかったです。
この物件はどのように探されましたか?
(中島さんが購入した母屋と離れ)
ご主人 「結いターン移住定住推進室」へ相談した後に農業課へも相談に行きました。そしたら「何の品目をやるにせよネックになるのは実家が農家じゃないこと」と言われ、実家は住宅街にあるので農地まで通うには遠いんですよね。「そうすると実家に住みながらだと難しいよ」と言われ、「じゃあ家も探して、さらに農地も探さなきゃいけない」となり「移住者には農業はハードルが高い」と思いました。物件は東京にいた頃から見ていたんですけど、農業課の方に言われてさらに真剣に農地が近くにあって、将来的に借りられる農地も近くにある物件を探し始めました。あと大事だと思ったのが近くに知り合いやアドバイスをくれる人がいるといろいろとつながりが生まれてくるので、そういう条件でいろいろ南信中を探したんですけど無くて。
奥さま 10軒以上は見に行ったんですけど、自分たちが思い描いているところがなかったです。
ご主人 伊那市高遠地区から阿南町、飯田市の南信濃地区までひたすら見ました。去年の6月から10月まで探していました。この物件の場合は不動産店のHPに出ていたんですよ。古民家だし広いし農地付きだと聞いて、それですぐに電話して内見の予約をして、一緒に中まで案内していただいて、見れば見るほどしっかりしていて「なんでこんなにきれいなんですか?」と聞いたら「今年の8月まで賃貸で人が住んでいたんです。なので水道、電気もそのまま使えます」と言われ、実際に床下を見ても柱とか梁がすごくきれいな状態だったので、「これはそのままいける」と思い、その日のうちに申し込みをして即決でしたね。
(中島さんの畑にて)
ただ、農地付きの物件だったので購入が決まるまでに時間がかかりました。農地を購入するには農家である必要があるのですが、古民家のある飯田市龍江地区では農地が1000平米以上ないと農家にはなれません。この物件に付いている農地は500平米で、購入要件を満たすのにあと500平米足りない状態でした。農業委員さんや知り合いに相談して、最後は親戚の農家さんに協力してもらい、そこを借りることができました。
融通をきかせてもらってすごく良かったです。移住を考えている人で農地付きで気に入った物件があっても購入はすごく難しいかもしれません。
(母屋の玄関)
奥さま 私も気に入ったので、ここにしようと賛成でした。まず玄関に入ってすぐ見えた太い梁が印象的だったのと造りがしっかりしていました。きしむところもないし、ちょっと手を加えれば素敵な宿になりそうだなとイメージができました。
(母屋と離れ)
ご主人 見つけた時はゲストハウスではなく、自分たちが住むという可能性もあったので、最高の物件だと思ったんですけど、そこに「離れ」が付いて2棟ある。さらに「蔵」もあるし、「みそ蔵」や「農機具置き場」もあり、条件がそろっちゃって、この「母屋」に自分たちが住むのはもったいないと思い、これはこっちの「母屋」で何か事業をして自分たちは「離れ」で住みながら管理できる仕組みをつくったら、買った物件が収入源にもなるし、農地も付いているので農業もできるし、これはすごいプラスだなと思って、運命だと思いました。
物件探しでアドバイスはありますか?
ご主人 民間の不動産情報のまとめサイトがあるんですが、そこをずっと見ていて。そこに出ている物件から入ってその会社を検索するとまた違う物件が出てくるんですよ。それでいろんな不動産会社のサイトも見ましたね。
僕らは本当にラッキーだったと思うんですよ、条件に合う物件が出てきて。100%条件通りの物件は出てこないと思うので、どこかを妥協したり、どこかは修繕したり必ず出てくると思うんですよ。自分にぴったりの物件を考えるなら本当に長い期間、用意しとかないといけないと思います。
最初は条件を絞っておくのが大事だと思います。頭の中でイメージしてそれを元に検索をして。インターネットの検索だとどこにいてもできるので、その最低条件をクリアする物件をピックアップしといて、都会に住んでいる人だったら週末に一気に見に行くように予定を立ててというのを繰り返すしかないと思います。
市の助成などはありましたか?
ご主人 空き家バンクの改修に関わる助成金の申請をしました。改修費用の2分の1を助成してもらいます。飯田市内でも地区によって補助の上限額は違うんですけど、龍江地区など中山間地域は50万円が限度額のようです。
どのように改修をされますか?
ご主人 まだ手は加えていないんですけど、今後は加える予定です。建物自体が立派なのでなるべく変えないようにしたいんですけど。
(母屋の縁側に座る中島さん夫妻)
明治23年築なんですけど、恐らく当時から残っているであろう状態の梁とか天井材とかこの囲炉裏の部屋の床材とか、こういうのは同じ状態のものは手に入らないので、ここは手を加えたくないと思っています。でも囲炉裏の部屋は吹き抜けにして外した天井材は別で使おうと思っています。天井材はどこかに張り付けてもかっこいいと思います。130年の芸術ですからね。
DIYなどの経験はありますか?
ご主人 経験はゼロです(笑)
奥さま 大工さんがついてくれるので教えてもらいながら、できるだけ自分たちでやってコストを抑えたいです。
ご主人 宿にするにあたり採光がないと厳しいので、その辺を吹き抜けなどにして。ただ古民家は建築材を抜いてみないと痛んでいるのか分からない部分があるので。
(母屋の2階の部屋)
奥さま 2階から見える景色がスコーンと見えて最高です。ここはちゃぶ台とか置いて外を眺められるスペースにしようかなと。
ご主人 コロナの状況とかいろいろ変化しているので状況を見て、今年中には完成させて2022年の1月にはオープンしたいです。
離れはリフォーム中ですか?
奥さま メインのところは大工さんがやりながら、壁塗りや板張りとか改修も私たちに指導していただいて。材料はその大工さんが全部発注してくれているんです。
(改修中の離れのキッチンとお風呂、脱衣所)
このキッチンはもともと6畳6畳の部屋だったんですけど、ここに半分壁を作ってここが脱衣所とお風呂場とキッチンにしようと思っています。
写真:中島さん提供(改修後の離れのお風呂と脱衣所)
(改修中の離れのキッチン)
このキッチン台は私が作ろうと思って、この前、引き出しを作りました。ここの表面、全部引き出しを作る予定なんですけど、余った床材を張ろうかなと思っています。
写真:中島さん提供(改修後の離れのキッチン)
(共に改修中の離れの2階)
2階はここの壁も塗りましたね。もともとこういう柄だったんですよ。
天井も塗りました、だいぶ、明るくなりました。ここは主人が一人で張りました。ここも、もともと、緑だったので白にしました。一日あれば壁は塗れちゃいます。柱を被うマスキング作業が手間ですね。
(蔵)
ご主人 ここは蔵で2階もあります。本当は宿泊者にホームシアターとか置いてリビングスペースとして提供したかったんですけど、僕の書斎になる予定です、ホームシアターとか置いて。
(みそ蔵)
こちらが「みそ蔵」で、ここは露天風呂にしたいです。
奥さま お客さまが自分で焚いてお風呂に入るのもいいかなと思っています。
農業は奥さまがメインでやられますか?
写真:中島さん提供(農作業をする奥さま)
奥さま そうです。今年の4月から里親研修制度を利用して、そこの農家さんは主にスイートコーンと市田柿を作っているので、この家の隣とあとは借りた畑で作る予定です。また、宿で出せるような多品目野菜も作りたいです。最近は土作りと研修先からもらってきた苗を植えました。
里親農家さんはどのように探されましたか?
ご主人 これも運命的な出会いがありまして…(笑)僕らが飯田で出会った知人が高森町でサクランボ農家をやっていまして。6月くらいに観光農園のお手伝いに行った時にたまたま同じ場所に働きに来ていた方が今回、妻が研修でお世話になっている里親農家さんの知り合いで、「僕らは農業をやりたいんです」という話をしていたら「里親農家さんを紹介しますよ」と言われたんですが、当時はどういう農業にするか全然決まっていなかったので、とりあえずその里親農家さんの話を聞きに行きました。
奥さま その時は、来年1年間は地域の中に入って方針を決めていこうと思っていたので里親研修とかは特に考えていなかったんですが…。
ご主人 農業課の方やいろんな人に相談する中で、農村起業家育成スクールの受講生で龍江地区に住んでいた方から、11月に龍江の地域づくり委員会の会長さんを紹介してもらいました。今度はその会長さんが龍江の農業委員会の方を紹介してくれて、その農業委員会の方にもいろいろ相談していたら、「ブドウ畑が貸しに出されたよ。しかも成木で実がすぐできる状態」と教えていただきました。
しかも1200平米で、これは良い条件だと思って農業委員会の方も「新規就農するならこれはベスト。そのまますぐに収益化ができるから研修は受けなくても、貸す側の方も機械もあるし手伝う」と言われ、そこでお願いしたら、ちょうど別の方に決まった後でした。そしたら今度は、里親農家さんのところに里親研修に入る予定の方が家庭の事情で来られなくなり「空きが出たよ」と紹介され、タイミング的にも良かったので妻が研修に入ることになりました。
奥さま 本当にいろんな人の縁で里親研修を受けることになりました。
ご主人 本当に一歩進んで、また戻るの繰り返しでしたね(笑)。
ご主人はゲストハウスの運営ですか?
ご主人 もちろん農業のサポートもしますし、僕がメインで宿泊業もやります。1日1組限定の1棟貸しの宿にしようと思っています。それだとオペレーションが発生しないし稼働率も1日1組なので100か0かみたいな。たぶんそこまで、多くの稼働率を年間を通して取れるとは思っていないので、その空いた時間を農業と新しくもう1店舗と考えています。
龍江に今、87軒の所有者不明の空き家があると聞いているんですけど、そういう空き家の有効活用も将来的には考えています。店舗数を増やして宿泊のオペレーションを少なくして、農業とも組み合わせた展開を考えています。お客さんに収穫体験をしてもらうことも考えています。
(中島さんの畑にて)
改めて、飯田で暮らされてみていかがですか?
ご主人 ノンストレスです(笑)。水はおいしいし、空気はおいしいし、景色はきれい、都会ではビルが空を狭めていましたし。
奥さま 日に当たりますね。向こうではホテルに住み込みで缶詰でしたので。(笑)日の光に当たっていなかったので、めっちゃ白かったです(笑)。
ご主人 あと、人が良いです。コンビニに行ってもファミレスに行っても都会とは接客が全然違いますね(笑)。みんな心にゆとりがあるというか、ホスピタリティを持っているなと思います。龍江地区に来て農作業をしていると地域の人も話しかけてくれるし、会長さんからいろんな人を紹介してもらって、人の温かさはありがたいですね。“飯田時間”が流れていますね、確実に。