1級建築士に学ぶ!空き家DIYのポイント(山ノ内町)


長野県山ノ内町では、DIYによる改修イベントが行われています。今回の取り組みは、1級建築士の資格を持つ地域おこし協力隊・畑山泰斗さんの活動の一環として、「空き家となっている旧教員住宅を活用しながら移住者が気軽に住み始めることができる賃貸住宅を整備する」ことで、空き家の活用と地域の賃貸不足という課題に対応するのが目的です。
また、空き家改修にあたっては町の補助制度(※DIYによる自己施工は対象外となりますが、プロに依頼する工事は対象)も用意されており、水回りや屋根・外壁の改修、上下水道の接続など幅広い工事が対象となっていて、小規模な整備から大規模なリノベーションまで活用されています。
こうした制度と体験型イベントを組み合わせることで、山ノ内町では空き家の利活用と移住促進の両面から取り組みを進めています。
今回はイベントを通し、主催の畑山さん、講師の大工さん、そして移住定住支援を担当する谷津さんにDIYのコツや注意点を伺いました。実際の作業の流れとともに、そのポイントを紹介します。

畑山さんに聞く(地域おこし協力隊・1級建築士)
今回のDIYイベントはどのような経緯で企画されましたか?
地域おこし協力隊・畑山泰斗さん(以下、畑山さん)
地域おこし協力隊の募集が、教員住宅を活用して地域に不足している賃貸住宅をDIYで整備するという内容だったことがきっかけです。DIYは単に工事費を削減するだけでなく、地域住民や移住希望者を巻き込み、関係性をつくることも目的としています。
今回のイベントで参加者に伝えたいことは何ですか?
畑山さん
使われていない空き家をDIYで再生させることで、地域の賃貸不足を解決する取り組みです。2つの課題を解決しながら、DIYで多くの方に関わってもらうことで、物件を知ってもらい、この先住んでくれる人も含めて愛着を持ってもらえたらと思っています。
また、移住を検討している方にとっては、将来の賃貸住宅を事前に見ることができる機会でもあります。
フローリング施工で注意すべき点はありますか?
畑山さん
今回は畳の部屋をフローリングに改修するため、既存の状態に合わせて施工する必要があります。古い住宅では傾きや歪みがあることが多く、不陸調整(床の傾きや凹凸を調整し、水平に整える作業のこと)を考えながら作業することが重要です。
また、畳の寸法や厚さにもばらつきがあるため、現場の状況に応じた材料選定が求められます。
初心者がやりがちな失敗はありますか?
畑山さん
フローリング施工では、既設床とフローリングがぶつかる部分の処理が難しいポイントになります。端部は必ずしも整形ではなく、柱や敷居との干渉部分では加工が必要になるためです。
今回のイベントでは、そのような部分について大工の指導を受けながら進める形になっています。
DIYで難しい、専門業者に任せた方がよい工事はありますか?
畑山さん
電気工事や水道工事は資格が必要となるため、専門業者に依頼する必要があります。また、柱や梁(はり)、筋交い(すじかい)といった構造部分についても、安全性の観点からDIYで手を加えないよう注意が必要です。
断熱材の施工で気をつける点はありますか?
畑山さん
断熱材は隙間なく施工することが重要です。隙間が大きいと空気が通り、断熱性能が低下するため、できるだけ隙間を小さくするように施工する必要があります。
材料選びで気をつけるポイントはありますか?
畑山さん
フローリング材や断熱材は、グレードや厚みによって種類や価格が大きく異なります。性能とコストのバランスを見ながら、慎重に比較して選定することが重要です。
また、断熱材については(中東情勢などの影響で)資材価格の高騰や入荷の不安定さといった調達面での課題もあるといえます。
現場リポート(3部屋の工程 根太入れ・断熱材入れ・フローリング材施工)
実際の作業では、参加者は3つの部屋に分かれ、それぞれ異なる工程を担当しました。

■根太入れ( 床板を支えるために、床下に渡して固定する横木を入れる作業)
「根太入れ」を行う部屋では、事前に畳が撤去され、下地となる床材が露出した状態から作業が始まりました。根太は、部屋の寸法に合わせて長さを調整しながら設置していきます。
講師を務めた大工さんは、施工のポイントについて次のように話します。
講師を務めた大工さん(以下、大工さん)
「最初は少し長めにしておいて、後からぴったりに合わせて切ります。直接、置いてみて微調整しながらやるのが大事ですね」

また、古い住宅では床の高さにばらつきがあるため、そのまま設置すると仕上げの床材に隙間や浮きが生じる原因になります。
大工さん
「昔の家はどうしても傾きやズレがあるので、そのままやるとうまくいきません。糸を張って水平と高さを見ながら、スペーサー(隙間を埋めたり、高さを微調整したりするために挟む薄い板状のもの)で調整していきます。糸の両端に厚さ18ミリの木片を置いて、ところどころ18ミリの木片を糸と根太の間に入れて同じだったら平行ってことですね。張った糸が途中でゆるむこともあるのでその都度、糸巻きをロックし直し高さを固定することも重要です」

下:根太の水平を一定にするための目安として糸巻きを端から端まで張る
このように、糸で基準の高さをつくり、スペーサーを使って微調整する不陸調整(床のガタガタや傾きを整え、仕上げ材が水平に施工できるようにする作業)を行いながら作業が進められました。

下:成功例 木片が糸に軽く触れるか、触れない程度が目安
固定の際には、根太の端部を斜め45度にビス留めするなど、強度を確保するための工夫も見られました。

下:根太が少し短かったので厚さ1ミリのスペーサーを入れビス留

■断熱材入れ

隣の部屋では、床下に断熱材を設置する作業が行われました。根太と根太の間にぴったり収まるよう材料を切り出し、隙間なくはめ込んでいきます。
今回の作業では、断熱材として「押出法ポリスチレンフォーム」(ポリスチレン樹脂に発泡剤、難燃剤を混合し発泡させた板状の断熱材)を選びました。断熱材をはめ込む根太と根太の上から押し当てて目印となる線をつけ、その線に沿って専用のノコギリで切り出していきます。
施工のポイントについて大工さんは次のように説明しました。
大工さん
「断熱材を根太の上から押し付けて、手でたたいて線をつけて、その線に合わせて切ります。ただ、線より内側に切ると緩くなってしまうので、少し外側を意識して切るのがポイントです」

下:断熱材をたたいて根太の位置を写し取ったカット用の目印の線
断熱材は軽いですが見た目以上に硬く、力をかけて加工する必要があります。現場では「線が見えにくい場合は鉛筆で補助線を入れる」といった工夫も見られました。

下:切った断熱材を根太と根太の間に収める
また、施工後の仕上がりについても注意が必要です。
大工さん
「断熱材は隙間なく入れることが大事です。隙間があると空気が通ってしまい、断熱性能が落ちてしまいます」
一方で、多少の隙間については、後工程で調整が可能な場合もあります。
大工さん
「多少の隙間は、ウレタンで埋める(液状の硬質ウレタンを吹き付け、発泡させて隙間を埋める)こともできます。ただ、できるだけぴったり収めるのが基本です」
このように、断熱材の施工では「寸法に合わせた正確な加工」と「隙間をつくらない意識」が重要となります。


■ フローリングの施工
一方、別の部屋では、床の仕上げとなるフローリング施工が進められました。今回の施工は「捨て貼り」と呼ばれる方法で、下地の上に構造用合板(床や壁の強度を高めるために使う厚みのある合板)を敷き、その上に仕上げ材を張っていきます。
作業は、部屋の中心を基準に位置を決め、端から順番に進められました。施工に先立ち、大工さんが基本的な考え方を説明します。
大工さん
「リフォームの場合は、畳の下にある根太に対して直角方向に貼るのが基本になります」
また、床材の種類についても次のように話します。
大工さん
「以前は四角い市松の床材が主流でしたが、今は表面にラインが入ったタイプが多く使われています。多少の隙間は、後からシーリングやコーキングで補う前提で進めます」

下:施工後の隙間はコーキングやシーリング処理をするとの説明
【① 合板の長さを測定】
まず行われたのは、下地となる構造用合板の寸法を測り、カットする作業です。根太の位置に合わせて長さを正確に測り、施工位置に合うサイズに調整していきます。
役場で移住定住支援を行なう谷津さんは測定のポイントについて次のように説明します。
山ノ内町 未来創造課 移住国際交流係・谷津さん(以下、谷津さん)
「端から6番目の根太の位置で1780ミリのところで切ると、ちょうど根太の真ん中にきます。残りは反対側との間を測って調整します」
また、作業時の工夫についても補足します。
谷津さん
「合板に線を引いたら、使う方に丸印、使わない方にバツを付けておくと分かりやすいです」

下:構造用合板に印を付ける
【② 合板をビスで固定】
カットした合板は、床の強度を高めるためビスで固定していきます。ビスの位置は下の根太に合わせて打つ必要があります。
畑山さんは次のように説明します。
畑山さん
「ビスは根太の位置に合わせて打ちます。工法ごとに間隔が決められていて、補助金対象の工事ではその基準に従う必要があります」
また、固定方法についても現場の考え方が共有されていました。
谷津さん
「釘よりもネジの方が抜けにくいので、木ネジ(木材に使用するネジでビスの一種)を使ってしっかり固定しています」

【③接着剤の塗布】
合板の固定が終わると、フローリング材を張るために接着剤を塗布します。施工は「接着剤による固定+フロアネイル(床用の釘)による補強」で進められます。
畑山さんは接着剤の特徴についてこう話します。
畑山さん
「この接着剤は水で溶けないタイプで、基本はこれだけでも固定できます。ただ、浮き防止のために後から釘も打ちます」
塗り方にもポイントがあります。
畑山さん
「継ぎ目は少し多めに、あとは間隔をあけて数カ所に分けて塗るイメージです」
また、施工時の注意点として 「接着剤を踏むと衣類に付着した汚れが落ちないので注意してください」 といった現場ならではの声も聞かれました。

【④床材のはめ込みと固定】
接着剤を塗った後は、いよいよ床材をはめ込んでいきます。板同士をかみ合わせながら並べ、あて木を使ってたたきながら密着させていきます。
畑山さんは施工のポイントを次のように説明します。
畑山さん
「隙間が空きすぎない寸法に切ることが大事です。あとは材を傷つけないように、あて木をしてたたいて入れていきます」

中:残りのスペースの幅にカットした床材をはめる
下:はめた床材をあて木を使いたたいて密着させる
一方で、現場ではうまくはまらない場面も見られました。
畑山さん
「釘が出っ張っていると、床材が入らないことがあります」
その場合は原因を確認しながら微調整し、確実に収まる状態に整えていきます。

下:失敗した釘の直し

■ 感想を聞く
一連の作業を終え、参加者からはさまざまな声が聞かれました。
参加者
「思っていたより細かい作業が多くて驚きました」
「実際にやってみて、自分でできる部分と難しい部分が分かりました。プロに聞けてよかったです」
また、空き家の活用を見据えて参加した人もいます。
参加者
「実家を改修して民泊にしたいと思っていて、参考になればと思い参加しました」
「空き家利用に興味があるので、将来地元に帰ってきた時に自分でいろんなところを直したりできればいいな。少しずつできていくのを見るのは楽しいと思うんですよね」
このように、今回のイベントはDIYの体験にとどまらず、今後の住まいづくりを考えるきっかけにもなっている様子でした。
山ノ内町ではDIYイベントを今後も数回行う予定で最新情報はインスタグラムで発信しています。
▶畑山泰斗@地域起こし協力隊(@hatake.yamanouchi) • Instagram写真と動画
山ノ内町のリフォーム支援制度(Q&A)
山ノ内町では、空き家のリフォームに関する補助制度はありますか?
山ノ内町 未来創造課 移住国際交流係・谷津さん(以下、谷津さん)
山ノ内町では、空き家の活用を促進するため、住宅の改修に対する「空き家活用改修等事業補助金」を設けています。補助対象事業の経費総額の1/2以内で上限80万円になります。
どのような住宅が対象になりますか?
谷津さん
町内にある、現在人が居住していない住宅が対象となります。居住用の建物であることが条件で、賃貸目的で建てられた住宅などは対象外となります。
補助の対象となる工事にはどのようなものがありますか?
谷津さん
台所やトイレ、浴室といった水回りの改修のほか、屋根や外壁の修繕、上下水道への接続工事などが対象となります。住宅として利用するために必要な改修が幅広く含まれています。
対象にならない工事はありますか?
谷津さん
畳替えや障子・襖の張り替え、ガラス交換といった軽微な修繕については対象外となります。今回のようなDIYも対象になりません。
国や県のリフォーム補助金との併用はできますか?
谷津さん
町では特に制限は設けていませんが、制度ごとに条件が異なるため、詳細は各制度の要件をご確認ください。
このように、山ノ内町では制度面からも空き家活用を後押ししています。

